大判例

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高松高等裁判所 昭和36年(ラ)13号 決定

抗告人 横田キヨ子 外三名

相手方 川端治太郎 外二名

主文

本件各抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨は、原審判取消の上、本件を原審へ差し戻す旨の裁判又は審判に代わる裁判をせられたい、というに在り、その理由は、別紙記載のとおりである。

抗告理由一の(1)ないし(3)について。

記録により認められる諸般の事情から考えると、抗告人川端ハルエ、同横田キヨ子及び相手方川端英雄に対し原審のなした本件分割は、相当である。所論は、抗告人ら独自の見解であり、採るを得ない。

抗告理由一の(4)について。

抗告人川端福一は、本件被相続人から生前贈与を受けており、本件相続財産について民法第九〇三条第一項の相続分を有しないことは、記録上明らかであるから、論旨は失当である。

抗告理由二について。

所論の漁業権の有無、浜敷地に関する権利の有無及び漁船登録名義人の地位についての原審の判断は相当であり、これと異なる見解に基づく論旨は理由がない。

なお、記録を精査するも、原決定には他に不当の点は認められないから、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 横江文幹 裁判官 安芸修 裁判官 野田栄一)

別紙

抗告理由

一、原決定の遺産の分割の審判は民法第九〇六条の諸事情の認定に誤認があり考慮に欠けている。

(1) ハルエは被相続人の生前一身を犠牲にして一切の世話をしていた。同人は常々治太郎に対してハルエの家を建てるよう申しており、死亡後治太郎はハルエを追い出し倉庫に使用している。

ハルエは独身にて心臓病の持病があり無収入なれば相続財産中木造瓦葺二階建住家建坪一四坪の現物分割をなし、他の財産につき調節すべきである。

(2) 横田キヨ子に対する分割について、

横田家は漁業用資材並に鰯煮干の販売を家業としているが取引先は伊吹町方面が主にて同町に支店を設けなければならない。

その為に同人には少なくとも伊吹町畑真浦六二七の二、同所六二九又は宮の前二九三、同所三一八の畑の内いずれかを現物分割し割当てるのが適切である。一面横田キヨ子は相当資産があり前記現物分割の為に他に金銭の支払は短期にてなし得るから一層適当な分割となる。

(3) 川端英雄の分割につき、同人は現住宅地家屋を生前贈与を受け尚二十坪余の空地があり将来店舗、倉庫の拡張の余地がある。

同人に対する土地家屋の分割は相当程度に減縮しても差支えがない。

(4) 治太郎と福一との間の分割のきんこうについて、

被相続人は一家を挙げて鰯網漁業に当り且つ漁獲物に煮干加工を営んでいた。これが唯一の家業である。

治太郎は現在家業を独占し福一は単なる雇人同様の給与を受けている状態である。

然しこの家業は一家挙げて育成発展させたのである理想として両者一体となつて家業の降盛を計るのが好ましいが現実にそのことがいうべくしてなし難い以上一応各自独立経営が可能のように分割を考慮しその上にて協同経営可能のように分割すべきである。

この点につき漁業の実体を更に深く把握し少なくとも現在においては福一に煮り場を獲得できうるよう現物分割をなし、漁業権の評価を修正すべきである。

二、漁業権の評価につき原審判は事実を誤認している。

被相続人家の主要の生活の基盤は伊吹島における鰯施網漁業権である。

然るにこの漁業権につき原審判はその性質を誤解しその訴価並に相続人の生活に及ぼす考慮も欠けている。

この漁業は漁業法上許可漁業であるがこの許可は行政取締上の許可であり、権利を設定するものでない。

然し乍ら新規許可が事実上困難であり又債習上漁業者の間で売買取引の対象となつているのである。

従つてその評価についてはこの実体を基礎として業界の取引に通ずる鑑定人に鑑定の対象を明らかにして鑑定をなさしてこそ適切な評価が可能である。

仍つて改めて再鑑定の申請をいたします。

これに関連して浜敷地の分割についても浜地先は国有地であり所有権の対象になつていないがこれも慣習上一種の使用権が認められ取引の目的にせられており、現に国有地払下の時はその地先の使用者に優先的に払下げる取扱である。浜敷地は鰯漁業と一体不可分となる煮干場として重要であり伊吹島では土地が限られ狭少のため以上の点を充分考慮した上で鑑定をなし分割を決定すべきである。

原決定は以上の点につき売分の考慮が払われていない。

その他漁船登録名義人たる地位、船舶、漁網その他の漁具の評価についても同様にてこれを取引の実際に則し宛も工場財団の評価の場合と同様有機的綜合的な評価が必要である。

原決定は以上の諸点につき考慮を払うことが極めて少ない。

参考(原審判)

主  文〈省略〉

理由

一、相続人

本件の被相続人川端与右衛門は昭和三十年十一月二日観音寺市伊吹町(当時の香川県三豊郡伊吹村)乙七二番地の二において死亡した。

その相続人は次の七名でいずれも本件の当事者である。それ以外に相続人はない。

(1) 川端治太郎 明治四十二年四月一日生、被相続人の長男

伊吹町六番地に住み、漁業を営んでいる。被相続人在世中も長く同人を助けて漁業に従つてきた。

(2) 横田キヨ子 明治四十五年一月七日生、被相続人の長女

観音寺市観音寺町に居住し、夫横田伊蔵は漁具およびいりこの販売を業としている。

(3) 川端英雄 大正三年三月十五日生、被相続人の二男のち川端庄吉、同ヌイ(共に死亡)の養子となる。現在△△町○○○番地に居住し、船具商をしている。

(4) 合田チヨ子 大正六年三月二十日生、被相続人の二女。

合田元則に嫁し伊吹町に居住。夫は船大工で本人は農業をしている。比較的生活に苦しい。

(5) 川端洋子 昭和二十四年三月十日生、被相続人の三男川端政男の長女で、右政男が本件相続関始前の昭和二十七年六月十三日に死亡しているので、同人を代襲して相続人となつた。現在母の実家久保春吉方で同人夫婦に養育されている。母テイ子は神原正光と結婚している。

(6) 川端福一 大正十一年十月三日生、被相続人の四男

現在伊吹町二九二番地に居住し、兄治太郎の漁業をたすけている。

(7) 川端ハルエ 大正十四年三月十五日生、被相続人の四女

現在兄川端福一方や姉横田キヨ子方に居住しているが、被相続人在世中は共に△△町乙○○の○に住んで、同人の身の廻りの世話をしていた。心臓病をわずらつている。独身である。

二、相続財産の範囲と評価

本件当事者の供述、当裁判所の調査の結果、土地台帳謄本、家屋台帳謄本、家屋に関する観音寺市長の証明書(昭和三十五年七月二日)、漁船原簿謄本、および鑑定書と鑑定人の供述を綜合すると、

被相続人の遺産つまり本件の相続財産は、別紙その一の相続財産目録にかかげる

宅地 七筆

畑二 三筆

山林 三筆

家屋 二筆(ただしそのうち一方は一部分二棟のみ)

船舶

網その他の漁具

煮干の製造設備(ただし家屋を除く)

その他、電話、現金、煮干

であつて、その所在、坪数、現況等もそれぞれそこにしるしてあるとおりであり、それぞれの評価額もそこに掲げた金額を相当とすること、が認められる。

なおこれらのことに関して説明をつけ加える。

(1) 浜屋敷について。伊吹島においては以前から海岸に接する土地の所有者がその地先の水面を数十メートルにわたつて埋立ててそこを煮干のほし場に用いる例が多く、本件においても被相続人が△△町乙七二の二地先の海面を奥行三〇メートル間口四二メートルにわたつて埋立てて約三八〇坪の浜屋敷を造成しほし場に使つてきた。

しかしかかる公有水面を埋立てるにあたつて何の許可もうけず勝手にしたことであるから、そこが埋立てた者の所有になるはずがないのはもとより埋立者にその使用権が生ずることもない。国の所有だといはなければならない。

もつとも現状では埋立てた者はあたかも自己の所有地であるかの如く使用して誰からも文句を言はれることはない。しかも対価をもつて売買する例さえある。そして観音寺市では将来それら埋立地について市又は漁業協同組合の名で一括して国に対し埋立許可の申請をしさらに払下げの申請をするつもりで準備している。しかしその場合でも個人に払下げされるかどうかは不明であるし、護岸用地とか道路とかになる部分もあるであろう。これらの点から考えると、この浜屋敷は将来埋立者になんらかの権利が認められるようになるであろうし、したがつて現在でも関係者の間ではかかる期待にもとずいて或る価値を持つているであろうが、いまだ法律上の権利として遺産のうちに加えるまでに具体的なものとしては生成されていないといはざるをえない。

(2) 申立人は「被相続人は漁業権をもつており、それを相続財産に加えるべきである」と主張する。

被相続人は漁業法にいわゆる漁業権(法第六条)の免許(法第一〇条)は受けていなかつた。

被相続人はいわし巾着網漁業を営んでいたが、それは中型まき網漁業(法第六六条の二)の一種で、県知事の許可(同条)を受けてやつていた。

右の「許可」とは免許とことなり一般的な禁止の解除であつて、それによつて権利が設定されるのではない。(漁業「権」とはならない。)したがつてこの許可はそれを受けたものが死亡すれば効力を失うことになつている(法第六五条、香川県漁業調整規則第五条)。つまり漁業の「許可」は相続の対象にならない。

本件においても被相続人の死後相手方川端治太郎が自己の名で新たな許可を受けた。

もつとも実際には漁業の許可の売買とでもいえそうな事例がある。しかしそれは漁業資源の保護その他漁業の調整のために漁業者の数が制限されているので、新たに漁業をしようとしても事実上誰かが漁業の許可を返上しなければ許可がえられないため、その許可を返還してもらうことに対価が授受されるのである。その場合でも新たに許可を申請した者について資格が審査されて許否が決定されるのであつて、前の許可とは関係ない。したがつてかかる実例も法律上許可の売買とは異なるものである。

(3) 申立人は船舶の登録も財産権として相続財産に加えるべきであるという。

漁業の許可を受けるには漁船があることが必要であるが、漁船の建造には県の建造許可がいるし、その許可は既に登録を受けている漁船を廃止しその代りに建造するというのでなければえられないので、漁業の許可を受けるために漁船の登録を買うことが行われている実情である。

しかし漁業の許可について前述したのと同じく、この船の登録もそれが数を制限されているためあたかも一つの財産権ででもあるかのように取扱われているというにすぎないのであつて、法律上権利であるわけではない。登録を受けた漁船の所有者が死亡すればその登録は効力を失うし、船の譲渡により所有者が変ればやはりその登録は失効する。新たな登録は前の登録とは関係なくきめられる。

被相続人が持つていた太洋丸その他の登録についてもその登録自体を遺産に加えることはできない。

(4) 申立人は相続開始後相手方川端治太郎が相続財産である船舶、網、いり場やその設備等を使用していわし漁業をし煮干を製造販売したので、その収益を相続財産に加えるべきであると主張する。

相手方川端治太郎が右の相続財産を使用していわし漁業をし煮干を製造販売したことは明かである。そしてそれによつてかなりの収益をあげたことが調査の結果などで認められる。しかし、かかる収益は船その他の道具、設備なしには得られないけれども、他面漁業者の経営上の判断、技倆、勤怠とか天候、漁況等の自然的条件とか需給その他の経済的条件等各種複雑な要因がからみあつて生みだされるものであるから、そのうちから船、網その他本件の相続財産であるものの寄与した部分を区別し算定することはできない。

つまり右相続財産の果実を確認することはできない。

むしろ果実ではないと言うべきである。したがつてかかる収益は本件遺産分割にあたつて遺産のうちに含めない。

(5) 問題は船、網等の漁業用財産についてである。

相続開始当時にあつた船舶、網、煮干のいりば設備は別紙相続財産目録にかかげる通りであつたが、その後太洋丸二艘と漁勢丸のエンジン、いわしきんちやく網はそれぞれそこにかかげた代金で売却され、その他の網はほとんど古い所が残らぬほどに補修を加えられ、蒸気バーナーや手押ポンプは新しいもつと便利なものに代えられ、「むしろ」「せいろ」はもうなくなつてしまつた。

そのように変つたのは、相手方川端治太郎がこれら相続財産を使つて漁業を営んでいた間に、漁船のトン数制限のためやむをえず既存の船を売つてその代金で新しい船を買いかえたとか操業方針の変換のため網を売つたとか、技術の進歩に伴いいりばの設備を更新したとか、煮干の製造につかつたので当時の「むしろ」「せいろ」が消耗したとかいう結果である。そして現在において相手方川端治太郎は相続開始当時の船、網、設備にかわる船、網、いりば設備を持つている。その間同人の企業としては継続した一体のものである。前のものも後のものもそれらがともにその企業用財産であることにおいて変りはない。

そこで、遺産分割の立場で考えると、相続開始当時存在した船、網、いりば設備が遺産分割時においてその形、姿はかわつたがその価値としてはかわることなく存在し、その価格が分割の対象となると解するのが衡平の精神に合致して相当である。(不当利得の問題としないことになる)

つまり、売却された船(エンジンを含む)、網についてはその代金が現存しなくてもその代金額で(それを相続開始当時の価格とみるほか資料がない)、その他のエンジン、網、設備はそれぞれ相続開始当時の評価額で分割に加える。

(6) その他申立人は電波探知機を相続財産であるというが調査の結果によるとそうでない。被相続人の家財道具としては考慮するにたるものはない(申立人も認めた)。相手方川端治太郎の代理人は小作地の訴価が高すぎるというが、相手方合田チヨ子の供述、鑑定人の供述等によつて知られる伊吹島の実情から考えて、右鑑定人の評価つまり当裁判所の認める価格が不当であるとは考えられない。

なお申立人は相手方川端治太郎が申立人の申入れにもかかわらず船を売却したことを問題にしているがそれは前にも記したように県の指示により船のトン数をかえる必要上やむをえずしたことと認められるので、そのことが本件遺産分割に影響することはない。

三、生前贈与について、

相手方川端英雄、合田チヨ子、川端福一の各供述、相手方川端洋子の親権者神原テイ子の供述、当裁判所の調査の結果、鑑定人の鑑定の結果を綜合すると、

本件共同相続人のうち被相続人からその生前に婚姻のためとか生計の資本として贈与を受けた者、その贈与された物、その贈与の価格はそれぞれ別紙目録その二、(甲)の生前贈与目録に記したとおりであることが認められる。

申立人はそのうち相手方川端福一の贈与された家屋について評価が高すぎるとのべているが、調査の結果と対比し鑑定の結果を必ずしも不当とは思えない。なおその点は申立人のいう価格で計算しても相手方川端福一が相続分がないことにかわりがないからいずれであつても本件遺産分割に影響がない。

相手方川端福一は被相続人から「いりば」を贈与されたと主張する。同人の供述、相手方合田チヨ子、川端ハルエ、川端英雄の各供述を綜合すると、被相続人はその死が迫つたとき相手方川端治太郎に対し相手方川端福一、川端ハルエ等の面前で「自分が死んだ後は福一に浜(いりば)をやつて共同で漁業を営むように、ハルエには家を建ててやつて商売をさせるように」という趣旨のことを述べたことが認められる。この言葉は被相続人が子供達に対する希望を表明したものと解するのが相当であつて、その言明によつて生前贈与をしたものとみるべきではないし、遺言としても法律上の要件を欠いていて死因贈与とみられない。したがつて右主張は採用しない。

なお相手方川端治太郎や申立人について生前贈与の主張があるがいずれも確認することができない。相手方川端洋子の亡父政男についてはかりに生前贈与をうけていたとしても代襲者の生前贈与とはなりえない。

四、相続分について、

(1) 前記説明したとおり、

本件相続財産の価格は 四七一,万六九二〇円

生前贈与の価格は 一七一,万〇〇四〇円

合計 六四二,万六九六〇円

それを相続人七人に分配すれば一人前 九一,万八一三七円

右の結果相手方川端福一は右一人前よりも多額の生前贈与をうけていることになるから、同人はもはや相続財産に対して相続分がない。

(2) そこで、相手方川端福一を除外して考えると、

相続財産の価格 四七一,六九二〇円

福一の分を除いた生前贈与の価格(その二、(乙))二二,八〇四〇円

合計 四九四,四九六〇円

それを相続人六人に分配すると一人前 八二,四一六〇円

(3) 右一人前の分けまえから生前贈与を受けたものについてその受贈額を差引き、各人の相続分を算出すると、

(申立人 横田キヨ子

相手方 川端治太郎

同 川端ハルエ)(生前贈与なし)各八二,四一六〇円

同 川端英雄 (生前贈与一六,一四四〇)六六,二七二〇円

同 合田チヨ子 (生前贈与一,五九〇〇)八〇,八二六〇円

同 川端洋子 (生前贈与五,〇七〇〇)七七,三四六〇円

となる。

(4) 右計算に当つて前述した船、網、いりば設備のほかの財産についても、特段の事情が認められないので相続開始当時と分割時とで価格がほば相等しいものとした。(相続開始当時の価格をみつけることは困難である。)

(5) また相手方川端英雄は本件第一回調停期日に相続持分を放棄すると言明している。しかし同人は第二回期日にはその意思をひるがえして放棄はしないとのべているし、その後の手続においても遺産の分割にあずかる態度をつらぬいている。右第一回期日の言明はそれが調停手続中調停委員会での発言であつて、一般にかかる場合の発言は手続のある段階での暫定的提案としての意味しかなく事情に応じ変りうる不確定なものと解されるし、ましてやその調停手続が合意成立のみこみなしとして不調になり審判に移行する事態となつた後まで拘束するものではないと考えられる。さらに本件においては後記のように相続債務があり、それは当然同人にも分割されているわけであるから、右発言がその債務を意識してそれにもかかわらず積極財産の持分だけを放棄する意図でなされたと解するのは妥当でない。以上の理由から右発言は調停で合意が成立することを前提とした仮定的発言であつて、それによつて本件遺産分割の審判における相続分を失うものではないと認める。

五、分割について、

(1) 前記の相続分に応じて

(イ) 別紙相続財産目録のうち、宅地、畑、山林、家屋をそれぞれの「分割を受ける者」欄にしるした相続人の所有とし、

(ロ) 右目録のうち、船、網、いりばの設備およびその他をすべて相手方川端治太郎の所有とする。

(2) 右のように現物を分割すると各相続人について、現物分割と各相続分との対比が左のとおりになる。

相続人 現物分割の額 相続分に対する過不足

川端治太郎 三七七,五〇四〇円 二九五,〇八八〇円超過

横田キヨ子 〇 八二、四一六〇不足

川端英雄 二四、八〇〇〇 四一、四七二〇不足

合田チヨ子 二六、〇〇〇〇 五四、八二六〇不足

川端洋子 一八、六八八〇 五八、六五八〇不足

川端ハルエ 二四、七〇〇〇 五七、七一六〇不足

つまり相手方川端治太郎は他の五名に対しそれぞれの相続分に対する不足額(その合計二九五、〇八八〇円つまり自分の超過分)を遺産分割に代えて支払う債務を負うことになる。

(3) 右のように分割および債務の負担をさせる理由について説明をつけ加える。

(イ) 相手方川端治太郎は被相続人の生前から漁業に従事してきた。他の相続人(福一をのぞく、同人は相続分がないので考慮に加えない)はそれぞれの生活をしている。

漁業に関する財産は治太郎の所有とするのが適当である。その他治太郎の居住する宅地、建物および生活上必要な自作農地一枚とを同人の所有とした。

(ロ) 申立人は横田伊蔵に嫁して観音寺市観音寺町に居住している。船具等の商売により生活も安定している。伊吹町に農地を所有することは農地法の精神からして適当でないし、その他宅地、山林についても他の相続人に比べその必要度がすくないと思われる。

(ハ) 不動産は相手方川端治太郎の所有としたほかを、相手方川端英雄、合田チヨ子、川端ハルエの希望をできるだけ容れながら分割した。

もつとも相手方川端ハルエは家屋のうち納屋の中二階を希望していたが、横造上一階と二階を分割所有させることが適当でないと認められたし、他に宅地等を所有させたことや同人の生活の実情相手方川端治太郎との間柄等を考え、その希望を容れなかつた。

六、相続債務について、

被相続人にはその死亡当時いろいろの債務があつた。それら債務は相続開始と共に当然に各相続人に分割相続された。その相続分は相手方川端福一を加えて相続人七名いずれも平等である。ところで相手方川端治太郎は右相続債務のうち別紙目録その三「相続開始後川端治太郎が支払つた相続債務の目録」に記されているように自己の負担で支払いをした。その合計額は八一、〇九九七円である。そこで同人は右支払額の七分の一に当る一一、五八五七円づつを他の相続人六名に代つて支払いしたものとして、各人から償還をうけることができる。

相手方川端治太郎は前述のとおり他の相続人五名に債務を負つていることでもあるので、本件遺産分割に当つて相続債務についての各自の負担をも併せて解決しておくことが、当事者のために望ましいと思われる。

そこで、相手方川端治太郎と他の相続人との間の債権債務を整理すると、

相手方川端治太郎は、

横田キヨ子に対し 七〇、八三〇三円を、

川端英雄に対し 二九、八八六三円を、

合田チヨ子に対し 四三、二四〇三円を、

川端洋子に対し 四七、〇七二三円を、

川端ハルエに対し 四六、一三〇三円を、

支払いすべきであると共に、

川端福一から 一一、五八五七円の

支払いをうける債権がある。

なお相続債務の内容について申立人、相手方川端福一、川端ハルエはそんなにはなかつたはずだといい、相手方川端治太郎はその他にもあるというが、いずれもその主張をみとめるにいたらない。被相続人の葬儀費についても相手方川端治太郎の主張のうちどれほどを相続財産の負担とみるべきか明かにしがたいしほぼその額に等しい位の香尊があつまつたと認められるので相続債務に加えない。

七、結論

以上に説述したように本件遺産分割は、現物の分割と現物分割に代えて相手方川端治太郎に債務を負担させることとによつておこなう。

もつともその債務から相手方川端治太郎が償還をうけるべき反対債権が差引かれることも上述のとおりである。

そしてその支払方法を五年間の年賦払いとする。もつともそのため年五分の利息を附加することとする。その内容は主文に示すとおり。

かかる年賦償還の方法をとる理由は、相手方川端治太郎が被相続人生前中長らく家業に従事して相続財産の維持増加に力を尽したこと(その間生前贈与をうけることもなかつた)、今後この債務の返済によつて事業の継続が危くされてはならないこと、そうしても他の相続人の生活に支障がないこと、などである。

相手方川端福一はその相続分をこえる生前贈与をうけているので分割にあずかれないが、相続債務は分担しなければならず、治太郎に対しその立替分を償還すべき債務がある。その支払方法利息の負担も主文に定めたとおりとする。

また本件審判費用の負担を主文のように定める。(家事審判官 水上東作)

目録〈省略〉

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